食文化の過去と未来をつなぐ「ぬま田海苔」。

食料品

 数多の道具屋が軒を構える「かっば橋道具街」の中心を貫く「かっぱ橋道具街通り」と、かつては上野から浅草寺へ続く参道であった「かっぱ橋本通り」。下町風情と歴史情緒あふれる二つの通りが交わる交差点に2018年、開店した「ぬま田海苔」。全面ガラス張りの明るい店内は美しくレイアウトされ、最新のファッションアイテムを揃えるアパレルショップのショー・ウィンドウを思わせる。昔ながらの「海苔店」の印象を覆す未来的なデザインのお店で販売される海苔は、どのような味なのだろうか。

洗練された空間に込められた「海苔」への想い

「ぬま田海苔」4代目当主・沼田晶一朗さんは、この店をオープンさせるまでの17年間を某アパレルブランドで勤めあげた、海苔店の当主としては異色の経歴を持つ。「初摘み海苔の専門店を開きたい」という母の夢を叶えようと実家の海苔店を継ぐ決意をし、17年間で磨き上げた技術と感覚を駆使して、従来とは全く異なる新しい「海苔の専門店」を作り上げた。「海苔」への思いと洗練されたセンスの詰まった独自の空間は、海苔という伝統的な食文化を現代へつなぐショーケースといえよう。

「おにぎりはコンビニで買うもの」という感覚の我々にとって「海苔の専門店」はなかなか敷居の高いもの。しかし、無駄を省いたこのスタイリッシュな空間は「海苔」を主役へと押し上げる見事な演出であり、訪れた客に「海苔の新しい体験」を予感させる。

「有明海産の初摘み海苔」との出会い

「ぬま田海苔」の名物、「有明海産の初摘み海苔」。その海苔が生まれるまでにも紆余曲折の物語があった。

 お店の祖である「沼田治雄商店」は、昭和13年に川崎市で創業された。多摩川が運ぶ山のミネラルと東京湾に広がる海のミネラルをたっぷり含んだ多摩川。その河口付近の川崎漁場で採れた「大師のり」が店の名物であった。その後、川崎市周辺の開発によって川崎漁場がなくなり「大師のり」も途絶えてしまう。

 昔ながらの「海苔」の美味しさを求めてやまぬ四代目当主と、店を支える「大師のり」を知る古くからの常連客が追い求めようやくたどりついた海苔が「有明産の初摘み海苔」。

「大師のり」と同様「有明産の初摘み海苔」には、有明海へそそぐ川が運ぶ豊かな山のミネラルとそれに交わる有明海のミネラル、二種類の異なったミネラルが豊富に含まれる。果たしてその味は。

貴重な「初摘み海苔」の食べくらべを

 清潔な店内には色とりどりの海苔の缶がアパレルショップのショーケースのように整然と並べられている。海苔にはそれぞれ採られた漁場と等級があり、味も香りも一つ一つ違う。

 仕入れらえた海苔は一枚一枚丹念に心を込めて仕上げられ商品化される。中でも初摘み海苔は身が柔らなため、買い付けた一割近くが欠けてしまう。その欠けてしまった乾海苔の一部は全型海苔を二千円以上購入した客向けに、店に備え付けられた海苔焼機で炙られ、試食品として提供されるのだ。

 試食の機会を得た筆者が選んだのは「大和南〇特①」。「大和南」は海苔の産地を表し「〇特①」は海苔の等級を表す。

「大和南〇特①」は、お茶の産地としても名の通った福岡県八女市・三国山を源泉とする矢部川の河口に広がる福岡県大和漁場で収穫された海苔。海苔焼機が作動し始めた。

焼かれる前の初摘み海苔は赤みがかった紫色

 店内いっぱいに広がる香ばしい磯の香りと共に焼きあがった海苔は、透明感のある鮮やかな緑色に変わる。

 まずは香りを楽しみながらそっと一口食べる。想像を超えるパリっとした食感と潮風を感じさせるような濃厚な磯の風味がスッと鼻を抜けていく。遅れてやってくる採れたての海苔そのものの舌触りと深い味わい。

 今まで塩やしょうゆをつけて味わっていたことを後悔するような味わいの奥深さにしばし沈黙。

 だんだん口の中で溶かされるにつれて、磯の風味と舌触りがまろやかになり甘みのあるコクの深い味わいへと変わってゆく。

 少しづつ時間をかけて食べていき口の中に海苔が無くなってからも、香り、旨味、風味の余韻を満喫。

 今まで食べていた海苔とは全く異なる贅沢な味わいの「大和南〇特①」は、海苔本来の旨味がしっかりとしているためそのままスナック感覚で味わえる。また、塩おにぎりやチーズに合わせれば、包まれた食材に今まで味わったことのない格別の風味を加えることが出来るだろう。

自分好みの海苔を探しに

 店内に備え付けられた海苔焼機で炙られるのは「乾海苔」と呼ばれる水分を含んだ状態の海苔。店内に並べられた海苔は「強焼き」で焼かれているため、購入して自宅で食べるときには、改めて炙る必要はないそうだ。

 センス溢れる精錬された店内で味わう「初摘み海苔」は、まさに絶品。「大師のり」の歴史から「海苔」の未来までを想像させる贅沢なひととき。

 長らく日本の食文化の一端を担ってきた「海苔」。下町風情と歴史情緒あふれる「かっぱ橋道具街」にできた古くて新しい「ぬまた海苔」でその奥深さを体感して欲しい。

ぬま田海苔
住所  :  東京都台東区西浅草3-7-2
営業時間: 11:00~17:00
定休日 : 不定休
電話番号: 050-1745-9617

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