繊細で儚いプロの技。奥深い味わいに潜む秘密とは。「Day&Anny(デイアンドアニー)」

食料品

もうすぐ午前11時。雲の少ない明るい空が清々しい。朝ごはんを食べ損ねたせいかいつもは眠たいこの時間も空腹で何故か目が冴えている。今日は視野が広い。良く通っているはずの合羽橋本通りも違う街に来たような気分である。

お昼の余裕を持たせて軽く食べたい。大分遅めの朝ごはんにありつくため路面に視線を送る。自分の舌と相談しつつじっくりと吟味するこの時間。豊かな気持ちを味わえるが、時間も時間だ。ゆっくりしている場合ではない。ふと時計に目を落とすと長針が真上を向いている。顔を上げると、建物の角でカーテンを開いているのが見えた。ショーケースにずらっと並んだ沢山のケーキ。まるで胃袋を掴まれた様だった。

至極名店のレシピ

オープン直後の店内は、沢山のケーキとパンが所狭しと並んでいる。どれもこれも美味しそうで心が躍るようだ。

ここは、渋谷に本店を構えるフランス料理店「シェ松尾」の元オーナーシェフであり社会文化功労章も受賞した松尾氏がプロデュースをしている。シェ松尾は1990年代に天皇、皇后両陛下も来店し、創業以来多くの著名人を迎え入れてきた名店だ。松尾氏がシェ松尾を引退後、ケーキとパンの店Day&Annyをプロデュース、縁あって松が谷に出店。店舗に携わった人々は皆合羽橋付近に出店経験がなかった。そういったワクワク感もあってここに決めたのだそう。

名高いレストランの創設者が手掛けるお店とあって、その味わいはまさに一級。パンは松尾氏、ケーキはシェ松尾で長年パティシエを務めていた三嵜(みさき)氏が考案している。長年の知識から作られたその味はどの様な秘密を秘めているのだろうか。

手間と時間を惜しまず丁寧に作られたこだわりのパン

パンはすべて一本一本丁寧に作り上げていく。手間と時間を惜しまず、低温で25時間熟成。「美食」と「健康」を追求する松尾氏だけあって素材を厳選している。高品質なバターに、北海道産の小麦粉。ミネラル豊富な沖縄産のキビ糖などを使用。乳化剤、安定剤などの添加物、ショートニング、マーガリン、植物油脂などに含まれるトランス脂肪酸などは一切使用していないのだそう。日常的に食べるパンが体に優しいというのは嬉しい。

目立つのは大きく立派な食パンたち。カラッとした小麦色のゴールドと綺麗な白を纏ったホワイトの2種類がある。これは製法も材料もまったく違うのだそう。最初に生まれたのはゴールド。キビ糖と湯種を使用しており、食感はもっちり。弾力のある食感と豊かな風味の食べ応えが特徴的。ホワイトは生クリームとはちみつを練りこんで作っている。そのため、ゴールドとはまた違うしっとりふんわりとした口当たりになるのだそう。クッキーの様な豊かな香りが癖になる耳は、最後まで美味しくいただくことができる。

多くのお客様に支持を得ているゴールド。その他にも売りにしているのはレーズンとオレンジピールが芳醇なレーズンパンの「レーズングレイス」。メロンパンやミルクフランスなども人気の商品だ。ミルクフランスは細長いパンの中にイタリアンメレンゲという少し硬めのメレンゲを挟んだもの。ゴールドと同じ生地を使用しているため、食感がもっちりとしており、しっかりとしたメレンゲと相性が抜群。一度に何個も買っていく方がいるほど愛されている。

素材や製法を聞いているだけで美味しさが伝わってくるパン。とても惹かれるところではあるが、既にケーキを食べる口になってしまったため渋々断念。パンは次回の楽しみに取っておくとしよう。

素材のインパクト

気持ちを切り替えてショーケースに向かう。タルトにいちごショート、熊の顔を模ったティラミスなどざっと10種類ほどのケーキが目に飛び込んでくる。選ぶのも容易ではない。沢山の中から気になったのがカシスのケーキ。爽やかで鮮やかな赤に惹かれるまま、こちらをいただくことにした。

ピシッと揃った綺麗な長方形。そのシルエットや層の色味も相まってとても可愛らしい。崩さないように丁寧にフォークを入れていく。優雅で穏やかな気分だ。ワクワクしながら口に運ぶと、酸味と甘さのインパクトが口中に広がった。ムースはしっかりと風味を立てており、まろやかでとても滑らか。驚いたのは上に敷いてあるソースの濃厚さ。ギュッと詰まった味わいが全体を締めてくれている。基盤となるスポンジとクリームは非常に舌触りが良く優しい。濃厚なカシスの味わいがマスカルポーネチーズとの相性でクリーミーに仕立てられている。混ざり合うごとの変化が楽しい。

究極の味わいを求めて

三嵜氏は足し算を重ねて結果的に味が分からなくなるお菓子屋さんは少なくないと言う。例えばモンブランにカシスなど奇抜な組み合わせをすることが多い。美味しさを求めた結果ではあるが、あまりに難しい組み合わせは味がぶれてしまう。Day&Annyのケーキは皆マロンやカシス、キャラメルポワールなどシンプルなネーミング。お客様が味を想像出来るよう、その名のインパクトが強く出るレシピを意識しているそう。例えばシンプルなマロンは3種のペーストを使用している。ベーシックな栗に、ある程度の味を引き立たせるお酒や味の濃さを出す和栗を入れている。素材の良さを引き立たせるとは簡単に言うが、これもプロの技があってのことだろう。

初めお菓子にはあまり興味が無かった、三嵜氏。料理で入ったシェ松尾が続々と店舗を展開。パティシエの人手が足りなくなり、お手伝いでデセールを作り始めた。段々面白くなり、そのまま30年間パティシエを続けた。培った経験を活かし、松尾氏がレストランを引退した後も松尾氏のもとでケーキを作り続けている。

やはりケーキを考える基点にあるのはレストランでお出ししていたデセール。材料を1グラム単位で調節。その場で召し上がっていただくため賞味期限が短く、非常に繊細。同じ商品でもゼラチンの量が数グラム違うだけで味わいが全く変わってきてしまうのだと言う。そこまで繊細で緻密に作られているとあって、味覚も食感もインパクトが強い。デセールと、テイクアウト用のケーキ。全く別のものに感じるが、近づけるため何度も何度も作り続けた。難しく考えすぎず、沢山失敗を繰り返した経験から思い描いたケーキを作っていくのだそう。常に美味しさを求めて、経験を重ねた今も新しいことに挑戦し続けていく。この探求心が最高のレシピを生み出すのだろう。

ここの商品には秘密がいっぱい詰まっている。何度も雑誌に掲載された数種の生クリームをブレンドしたショートケーキ。何層ものフレーバーからなる奥深い味わいのバナナケーキ。それは、沢山のセレブリティを向かい入れてきた名店に従事していた方々が作っているからこその奥行き。その味わいには沢山の経験と蓄えた引き出しから出てくる知識と技術。プロの技が沢山詰まっている。町の方にも出来るだけ多くその美味しさを知って、奥深さを感じ取って欲しい。

旬のものやお客様にいただいた声など参考に、これからどんどん新しいパンやケーキを作っていくと言う。今しか食べられないものも沢山ある。そんな繊細でデセールの様な儚さも。至極のケーキやパンと一緒に味わってみたらまた楽しいのではないだろうか。

Day&Anny(デイアンドアニー)
住所  :東京都台東区松が谷2-31-6
営業時間: 11:00~19:00
定休日 :月曜日
電話番号:03-5246-3957

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